福岡高等裁判所 昭和31年(う)1627号 判決
判決理由〔抄録〕
記録を精査するに、原判決挙示にかかる被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書、桑原健次の検察官及び司法巡査に対する各供述調書、司法巡査の実況見分調書(二通)及び原審裁判所の検証調書によれば、被告人は原判示日時本件貨物自動車を運転し原判示場所に差し蒐った際巾員六・三米の道路前方約一八米、中央より稍々右寄りに桑原シズ子その前方約二米中央より左側に松原リエ子、その数米前方に桑原健次が何れも自転車に乗って同一方向に進行中なるを認めたが、その又数米前方には巾員六・三米にして両側に高さ一米の欄干を設けた全長七米のコンクリート製大坪橋が架設されていた事実を認めることができる。従ってその儘進行すれば、被告人運転の貨物自動車は大坪橋上において松原リエ子を左側に、桑原シズ子を右側にして追越すことになるところ、右欄干は高さ一米にして下が川である関係上欄干寄りに進行中の自転車搭乗者は、道路上の場合に比して、幾分不安を感じているのに、巨大な貨物自動車が速い速度で接近して後から追い越して来れば、一層ひどく心に不安動揺を生じ体の平衡を失い自転車のハンドルをふらふらさせ、ために事故の発生することあるべきは当然予見し得べきところと謂うべく、従って自動車運転者たるべき者はかかる場合自転車搭乗者を追い越さんとする際には、警笛を鳴らして十分避譲せしめた上前進し、且つ、同人等の心にひどい不安、動揺を生ぜしめない程度に広い間隔を保ち又緩急に応じ直ちに急停車をなし得る様極度に速度を減じ進行し以て事故の発生を防止すべき業務上の注意義務があると謂うべく、原判決も亦この趣旨なることが窺われる。各証拠によれば、被告人は警笛を鳴らし、桑原シズ子が道路右側に、松原リエ子、桑原健次が道路左側に漸次進路を移したので、速度を落して進行したが、なお時速二〇粁乃至二三粁の速さを以てしかも大坪橋上において欄干と自動車右側車体との間隔僅か一・七米位の間に桑原シズ子を挾み長さ五・二米、巾一・九五米、高さ二・一米の巨大な右貨物自動車を自転車に乗って進行中の同女の左側に極度に接近して追い越さんとしたため同女の心に極度の不安、動揺を生ぜしめ体の平衡を失わしめ、自動車運転台が同女の左横を通過する頃遂に同女が自転車のハンドルをふらふらさせて上体を左右に動揺させたため、同女の左側後頭部に貨物自動車の右側車体壁に衝突させて傷害を与え地上に転落せしめた事実を認め得べく、斯様に被告人がその運転する貨物自動車を大坪橋上欄干寄りに自転車に乗って進行中の桑原シズ子に極めて接近ししかも時速二〇粁乃至二三粁の速さを以て後から追い越さんとしたことは、業務上必要なる注意義務を怠った過失あるものと謂わねばならない。